新しい難燃システム”膨張黒鉛”の仕組みと用途

                          膨張黒鉛を理解するために

膨張黒鉛がノンハロゲン難燃剤として注目されています。

合成ゴム及び合成樹脂に難燃剤として膨張黒鉛を使用することは、昔から考えられていた事ですが、昨今のダイオキシンを発生させる原因をなくすノンハロゲンの市場流れから、ノンハロゲン難燃剤として脚光を浴びたのはここ数年の間です。市場のニーズの高まりに従い、ノンハロゲン難燃剤としての条件に適合するよう新しいグレードも研究開発されてきました。

1.膨張黒鉛の説明

膨張黒鉛とは、一口で言えば天然リンペン状黒鉛の層の間に化学品を挿入(インターカーレーション)したものです。

リンペン状の黒鉛は、主に中国で産出されます。中国では産地が2箇所あり、一箇所はサントン地区、もう一箇所はモンゴリア地区です。それぞれの産地にはサントン地区は石英を含有、モンゴリア地区はマイカを含有しており、膨張黒鉛の用途によって産地を使い分けています。例えば樹脂用の場合は製造装置を磨耗させる度合いを抑えるために堅い石英含有タイプでなく、モンゴリアン地区のマイカ含有タイプが広く使用されています。

天然鉱山から採掘されたリンペン状の黒鉛は、採掘後、粉砕、水分級の工程を通りカーボン含有量約95%以上の黒鉛になります。不純物を取り除くために強酸で洗浄、高温下アルカリ中で焼結します。再度洗浄後、カーボン量は最高99.5%まであげる事ができます。

次にリンペン状の黒鉛の層の間に化学品を挿入(インターカーレーション)します。この工程には、化学品を挿入しやすくするために硝酸や過マンガン酸カリウム、もしくはオゾンなどの酸化剤の使用が必要です。反応後、中和工程を経て、洗浄、ドライ工程と続きます。

代表的な膨張黒鉛の物性は次の通りです。

規格

代表的な膨張黒鉛

純度

92−99%

灰分

ソフト灰分

水分

1%以下

pH値

6.0−7.5

遊離酸

0.1mg/g KOH以下

水溶解物

0.1%以下

粒子径

32メッシュー200メッシュ

膨張率

350ml/g

膨張強度

95mmまで

膨張開始温度

150−300度


2.難燃剤としての膨張黒鉛

難燃剤としての膨張黒鉛は、熱によって含有している化学品がガスを発生し、その結果リンペン状の黒鉛が膨張していきます。 膨張して熱や化学品に安定した層を形成する事によって固相(チャー)方式で難燃効果をもたらします。難燃剤としてもっとも重要な項目は膨張率です。粒子系が大きいタイプほど膨張率は大きくなります。 次に膨張開始温度が重要なファクターになります。通常、処理する化学品として硫化系の酸を処理したタイプは膨張開始温度が200度、窒素系、有機酸系を処理したタイプは150度とされています。膨張はその酸の分解に最も関連します。しかし最近の研究では酸の種類だけでなく、反応時間、温度、酸の量、酸化剤、反応後の洗浄工程等によっても影響を受け、硫酸タイプの膨張開始温度は170-220度間でコントロールが可能です。もちろん膨張黒鉛を使用するにあたって成型温度以上での膨張開始温度に保つのは必要です。

このような熱特性以外にも各用途によってさまざまな技術が要求されてきます。例えば、ポリウレタンフォームの場合、pH値は中性、また、表面のクリーンさが必要となります。もしフォームが高温下で成型される場合は、さらなる高い膨張開始温度のグレードが必要です。 ポリオレフィンの場合、粒子径や灰分が重要項目となります。物理特性を保つ為に粒子径の小さいタイプまた灰分も製造工程での磨耗を抑えるために出来うる限り低くソフトなタイプが望まれます。耐火塗料の場合は、容易に分散するために粒子径の小さく、表面処理したタイプが適しています。

膨張黒鉛は、ハロゲンフリーで固相を形成する難燃剤です。そのため、たいていの場合膨張黒鉛は発煙性を低くおさえる事ができます。膨張したカーボンの層が絶縁層として働き、熱の移行を妨げます。

昨今の発煙性の重要性から、ノンハロゲンだけでなく、低発煙性においても環境にやさしい材料と言えます。

表1は、PPに難燃剤を15%添加した場合の膨張黒鉛とポリリン酸アンモニウム、ホウ酸亜鉛等ノンハロゲン難燃剤の比較表です。酸素指数(LOI)=黒と燃焼度=白のふたつの項目で比較しています。

      比較したノンハロゲン難燃剤

  • (APP)ポリリン酸アンモニウム
  • (MC)シアン化メラミン
  • ZB)ホウ酸亜鉛
  • (EG)膨張黒鉛
  • (K)カオリンクレー
  • (Z)ゼオライト

膨張黒鉛のLOIが30近くまで達成、燃焼度はほぼゼロとなり、どちらの項目も他のノンハロゲン難燃剤と比較してベストの結果となっています。

表2はPPに膨張黒鉛を添加した場合(15%と25%)とポリリン酸アンモニウムを添加した場合(15%)の、HRR(ピーク時熱発生度)、表3は同じ条件で煙総発生量を比較しています。どちらも膨張黒鉛の煙発生度合いの低さを表しています。

しかしながら、用途によっては膨張した層が不安定で、その結果、十分な難燃性が得られないケースもあります。研究によれば膨張黒鉛は他のノンハロゲン難燃剤、例えばポリリン酸アンモニウム、ホウ酸亜鉛、NP28含有窒素―燐系、等マイクロカプセル化した赤燐と併用して効果が出ています。

3.難燃剤としての用途

最近の開発で、難燃剤として膨張黒鉛の適する用途が数多く見出されましました。その一部は次の通りです。

1)発泡フォーム
発泡フィームは酸素の取込みが容易なため火の転移が非常に早くなっています。 そのため難燃性への取組みは最重要課題のひとつとなっています。この用途に膨張黒鉛は使用されています。膨張黒鉛はポリウレタンフォームの自動車、航空機、列車のシート材の難燃剤として使用されています。また自動車の断熱及遮音シートにも採用されています。建築用途ではポリウレタンフォームの窓枠、ドアのシーラントテープとして使用されています。またEVAフォームやEPSフォームにも採用されています。

2)コーテング
難燃コ−テング剤の材料としての実績もあり有望な用途と考えられます。特に粒子径の細かいグレードは、鉄筋の上に塗る耐火塗料として使用されています。

3)ポリオレフィン
膨張黒鉛を添加する事によって物理強度は落ちるものの、膨張黒鉛はハロゲン系難燃剤の使用が出来ないPE,PPに積極的に活用されています。 例えば、プラスチック/金属アロイのボードの用途での実績があります。

4)ビチューメンルーフィングシート
最近の調査では、ビチューメンルーフィングシートが挙げられます。この用途は、表に見えないため黒色での問題もなく、また屋根からボタ落ちしない特性と良好な難燃性から膨張黒鉛が最適と言われています。

5)その他の用途
中国では、下水管にスチールパイプの使用禁止となり、現在プラスチックパイプが使用されています。そのプラスチックパイプが部屋を通る隙間に耐火リング用に部屋間の煙移行防止のために使用されています。その他では、カーペットの裏打ち、耐火パテ、耐火枕木等の用途があります。

4.ポリウレタンの用新しい装置

ポリウレタンフォーム用途に膨張黒鉛を使用するために以前は大幅な製造装置の改良が必要でした。現在では製造装置の一部を交換するのみで可能となりました。この用途に使用される膨張黒鉛の粒子径は0.3mm(50メッシュ)、もしこの膨張黒鉛が高圧下でポリオールに吹き付けられたり、混合機内で磨耗した場合、粒子径が非常に小さいなり、結果十分な難燃性が得られないケースがあります。

混合機のヘッダーを改良する事により、ポリオールに均一に吹き付けられます。

5.結論

以上のようにノンハロゲン難燃剤としての膨張黒鉛はいろいろな用途が考えられています。昨今、各用途に適した物性を付与した膨張黒鉛も開発され、すでに実用化されています。他の難燃材と比較して膨張黒鉛は次の特徴が考えられます。

  • 危険物含有なし
  • 重金属含有なし
  • ハロゲンーフリー
  • 水が溶剤に不溶(安定)
  • 発生ガスが減少
  • HRR(ピーク熱発生度)が減少
  • 他のノンハロゲン難燃剤と併用可能
      膨張開始温度は150-300度

しかしながら、膨張黒鉛をもっと有効に活用するためには、さらなる研究が必要です。例えば色、膨張開始温度を下げる/上げる、粒子径を細かくする等の開発が考えられます。同時に製造装置メーカーとも膨張黒鉛を効率的に使用できる装置の共同開発も必要でしょう。